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完全犯罪 第7部 4ページ目

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最終更新日 3月3日



「ガチャ」

常連は勝手にドアを開ける。

ユージ「いらっしゃい」

男  「ども」

ユージがアクに目を合わせた。

それはこの男があの白い粉の持ち主だということをアクに伝えるためだ。

男  「俺の来てるか?」

その男はヒゲを生やし30代ぐらいでゴツイ。

ユージ「来てますよ。 ミッキー持ってきて」

ミッキーが後ろからそのダンボールを持ってきた。

ユージ「はい。これ」

男  「どうも」

男はユージに金を渡しダンボールを両手で持ち去ろうとした。

アク 「お客さん。ちょっといいですか」

男  「ん?」


アクはその男を奥の部屋へ案内した。

男  「こんなところに呼んで、俺も忙しいんだけどなぁ」

アクは何も言わずカバンから現金を出した。

100万。

男  「ん?」

男の目の色が変わった。

男  「にーちゃん。どうした?」

アク 「そのダンボールの中……ドラッグでしょ」

男  「……みたんか? 見ない約束じゃないのか」

男は意外と冷静だった。

アク 「すいません。契約違反なので100万貰って下さい」

男  「……」

男は100万を手に取った。

アク 「それどこから?」

それからはアクの思いのままだった。

男はいくら100万貰ったからといいアクが警察に通報すれば捕まってしまう。

男はとりあえずアクの言うことを聞くしかなかった。

それに男はアクが警察に通報するような人間ではないと感じた。

口封じのために男の方からアクに金を渡すのなら分かるが反対だからだ。


20分後――。

アク 「なるほど、ヤクザ絡みねぇ」

男がだんだん本心を言うようになってきた。

そして、男の名前が大山だということが分かった。

ユージが持っていた登録書には小林と書いていたがそれは嘘だった。

大山 ≪俺がヤクザだと言っても全然動じない……。どういうことだ≫

それからアクは言葉巧みに大山を信用させ、携帯番号を聞き出した。

大山は個人情報の売買やスキミング犯罪を主に行っているらしく、麻薬は年に2,3度しか扱わないらしい。


アク 「それでこれ(ドラッグ)はどこに持っていくんですか」

大山 「まーいろいろだな。もともと俺のじゃないしな」

アク 「そうですか。じゃあ今日はこの辺で、また連絡しますんで」

大山 「あぁ。またここに危ないもの送るかもしれんけどそんときはまた頼むわ」

アク 「はーい」

大山はダンボールを持ち出て行った。


アク ≪ふー。久しぶりに会話らしい会話したな≫


――。

1週間後。

アクは大山に頼みヤクザの組長と会うものの話にならずユージ達の元に返ってきた。

ユージ 「おーアクー。クミチョーどうだった?」

アク  「古い人間はヤダよ」

ユージ 「俺達はてっきりもう帰ってこないんじゃないかって思ったよ」

アク  「そのまま東京湾に沈められるって?」

ユージ 「そうそう、生きてて良かった」

アク  「まあ確かに一瞬殺されかけたけど……なんとかなったよ」

ミッキー「俺一人じゃ絶対そんなとこ行けないよ」

アク  「1%でも可能性があるならやってみるだけだって、なにせ最強の組織なんだから」

ユージ 「危ない橋渡るなあー」

……。

今まで積極的に動いてきたアクも自分を見つめ直していた。

いろいろな人と話すが基本的にアクは舐められている。


アク  ≪どうしたらいいんだ。金持っててもダメだ……≫

金の威力は凄まじいものがあるが、相手が自分より金持ちだったり金には困ってない人は金で動かないことが多い。

単にけんたから金を借りているアクは、ただの金持ちでしかない。

どこかの社長だとか、政治家だとかという”権力”がない。

やはりそれなりの大物を動かすためにはそれ以上の大物でなければならず、金を持っていればどうにかなるというものではなかった。


アク 「権力……? 人を動かす力が欲しい」


……。


それからアクはユージに店を任せ、自然と大山と一緒に行動するようになっていった。

大山は柄にもなくパソコンを使いこなし見たことも無い装置を使いカードを複製したり携帯電話の番号を変えたりしていた。


「こりゃ捕まらねーわ」とアクは思っていた。

大山の仕事場というかマンションは機械で溢れている。

大山の仲間は他に3人いる。

みんな30代で外見はいかにも怪しい感じだ。

秋葉原や新宿、渋谷辺りで行動している。

アクは大山にどれぐらい稼いでいるか聞いてみると月に500〜600万と答えた。



大山はそれほど稼いでいるのにスロット好きで月に2,3回朝早くから店に並んだりしていた。

――。
大山達は言ってみればプロの犯罪者。

犯罪で飯を食っている。

アクはそこに身を潜めることでプロとしてのやり方を学んでいった。

大山と一緒に過ごして2ヶ月ほどが経った。

あくまでもアクの目標は組織を作ることでありこれ以上大山の元にいても仕方が無いと思ったので別れようとしていた。



アク 「大山さん。俺そろそろ自分の夢に向かって動きます」

大山 「ああ、まさか人手不足のときに”無料”で手伝ってくれるなんて思わなかったよ。なんかあったら俺にいえよー。特にネット関係な」

アク 「あー。いきなりで悪いんですが」

大山 「あ?」

アク 「大山さんの知り合いで凄い人いませんか?」

大山 「凄い人ってどんなだよ」

アク 「もっと悪ーいことしてる人。しかも集団がいいです」

大山 「集団で悪い?」

アク 「いなければいいんですけど、自分で探しますから」

大山 「一人ならいるぞ。元殺し屋だけど」

アク 「殺し屋? マジ?」

大山 「日本人だしマフィアやヤクザとのつながりもあるんじゃないか。電話してやろっか」


アクは軽く息を呑んだ。

アク 「はい」


――。















それから2年後――。

アク28歳。あきと結婚を約束した年。

---

2年前、大山に紹介してもらった殺し屋から殺し屋の仲間達。

それから、ヤクザにマフィア。

アクは次々と仲良くなり日本の裏の世界ではちょっとした有名人となっていた。


2年前始めた第二の倉庫は順調に成長し東京に3軒と拡大していた。

ユージやミッキーはもう仕事をしておらず、仕事はバイトに任せていた。


アクが裏の世界で有名になるにつれて宣伝していったのが第二の倉庫の成長に大きく影響していたようだった。



――。

アイドルとして全国的に人気があった”あきあゆ”も28歳という年齢のため解散することになり最後のコンサートが10月に武道館で行われた。


11月1日。



いかにも怪しい高級外車の後部座席に乗っているアクが携帯電話で話をしていた。

ちなみに運転手はミッキーだ。その隣にはユージが乗っている。


アク 「うん。うん。分かった。 殺っていいぞ」

ユージ ≪また、人殺しか?≫



アクが電話を切った。

ユージ「今度は誰殺すの?」

アク 「よくわかんね。それにたぶん殺しはしないよ」

ユージ「半殺しってやつか」

アク 「あはは。ただのケンカだよ。そんなのいちいち連絡入れなくもていいのにな」


28歳のアクに付いて来るという若い連中が多く集まり1つの組織のようなものが出来上がっていた。

メンバーは全部で80名ほど。

まだまだ、小さいながらもアクは毎日が充実していた。


アク自身はヤクザやマフィアの横のつながりがあるが他のメンバーはほとんど無い。

ヤクザの幹部にしてやると言われていたのだが、誰かの言うことを聞くのが嫌だったので独立したようなものだ。

――。

そして、アク達が向かっているのはお台場だ。


あきとの待ち合わせ。


10年前の約束をどうするのか最終決着といったところだ。

ただ、アクはここ数年でだいぶ変わってしまった。

マフィアだったころよりタチが悪い。


≪俺は人間を辞めている≫と自分に言い聞かせてここまで這い上がってきた。


それにもっと大きい組織にすると思っているので時間が惜しいというのもあった。


ただ、なぜかアクはポケットに婚姻届をしまいこんでいた。



いくつか信号を越え真っ青な空が広がる中お台場に付いた。

アクはユージ達を置いてあきの元へ。



あきは深い帽子をかぶり海辺に座っていた。


アク 「よー」

あきはニコッと笑った。

あき 「久しぶりー」


少し二人は海辺を歩き風を感じていた。


あき 「今日こないのかと思ったよ」

アク 「まさか本当にいるとは思わなかった」


二人とも緊張しているのか昔より話が進まない。


アク 「10年ぐらい前だっけ覚えてる?」

あき 「うん。もちろん、今日は迎えに来てくれたんでしょ」

アク 「……あぁ。 俺のことまだ好きか?」

あき 「どうかなー? 芸能界にはかっこいい人たくさんいるし」

アク 「そうだよな。 あゆみはどうしてる?」




車内では。

ユージ「二人で戻ってきたら結婚で、アク一人だったら振られたってことだな?」

ミッキー「そしたら即効俺があきにアタックしてゲットだぜ」

ユージ 「馬鹿、それ俺もいく」














ユージ ミッキー ≪二人、結婚しないかなー≫


---


あゆみはまだ芸能人としてテレビに出るという話を聞き、あきはもう引退して違うことがしたいということを聞いた。


アク 「で、どうする? 俺達」

あき 「えー私から言うの?」



アクはこのとき気づいてしまった。


アクが昔あきに渡したダイヤの指輪があきの左手の中指にはめられていることを。


アク ≪……マジかよ≫

あき 「……この辺で少し座ろ」

アクは立ったまま――。

アク 「結婚すっか」

アクはあくまであきの顔を見ずに遠く水平線を見ながらそう言った。

あき 「え?」

アク 「俺みたいなやつでいいなら、結婚しようぜ」

あき 「よかった……」


アクはあきに婚姻届を見せてユージ達が待つ車へ戻っていった。


あき 「なんだ、みんないたんだ。久しぶり」


ユージ「ヒューヒュー」

ミッキー「おー」

アク 「そういうことだ。行こうぜ」




ミッキーは車を出した。

車内では、アクがあきの左手の中指にあった指輪をそっと外し薬指に入れ替えた。


――。



1ヵ月後。

あきとの同棲するのかと思いきやそう簡単なものではなく二人は別々に暮らしていた。

頻繁に電話はするが会って話すことは少ない状態だった。

それでもあきは幸せだった。


12月2日。

アク ≪結婚かぁ。守りに入るってこういうことか≫

思い切ったことがしたいと思うアクもあきとの結婚を前に一歩が踏み出せないでいた。

結婚すると決めた以上相手を幸せにしなければいけないという気持ちが膨れ上がり、結婚してすぐ警察に捕まるわけにはいかなかったからだ。

アク ≪待てよ。あきと結婚するってことは、あゆみとも親戚になるんじゃねえか。ああ!よしきともか?≫


結婚というのは紙切れ一枚の約束事ぐらいしか思ってなかったアクもよくよく考えるとその重大性が分かってきた。


アク ≪つうか、あっちの両親は俺でいいのか?≫


結婚が頭から離れない。ただ、そのプレッシャーが楽しかった。


アク ≪次でラストかな≫

アクは犯罪から手を引こうと考え出すようになってきていた。

ギャンブルで勝つ方法は1つだけ。勝っているときにやめること!

アクは十分と言っていいほど金を稼いでいた。

けんたには借金を2倍で返しアクを慕う者が金に困っていれば惜しみなく金を貸していた。


アク 「社会の正体は人だ。人を上手くコントロールすることでいくらでも幸せな人生が送れる」


――。


月1の集会。


東京にある大きなホテルに集められたアクの仲間達。総勢80人。

ただ、団結を深めるためぐらいの意味で集まっている。


飯は全てアクのおごり。

80人いる仲間の8割以上は両親が離婚しているか片方既に死んでいるかというような家族に恵まれていない環境で育った人物だ。

女はいない。


アクの仲間になるにはこの集会に来るのが一番てっとり早い。

またこの集会で友達を連れてきたといい数人の男が仲間になった。


ヤクザの集まりとは違い、笑いが耐えない場である。

学校の部活の集まりのような感じが一番妥当な例えになるだろう。


あそこのパチンコ屋は出るとか、新宿に新しい飲み屋ができたとか話す内容はまちまちなことが多い。

単純に面白い。

ゆえに一度参加したら誰もやめない。

そうやってアクを慕う人間が次々と集まっていった。

アク ≪月100万で俺の仲間がどんどん増える。みんな第二の倉庫の会員にさせるし、金はなんとかなる≫


その場でアクはあきと結婚することは一切言わなかった。

そのかわりと言ってはなんだが、集会で初めてアクからの指示が出た。


アク 「ちょっとみんないいか?」

ざわざわしていた場が静かになった。


アク 「もし、この中で金が欲しいやついたら今日後で残ってくれ。1つ言っておくが危ない橋だからな」


……。

ユージ「なんだろ?」

ミッキー「さー?」












午後8時。集会は終わりとなり普段は別々のグループになり街へ出て行って二次会などをやっている連中が誰一人その場を後にしなかった。


部屋に散乱してあるビール瓶や皿などが片付けられ沈黙が続いた。


アクがトイレから戻ってきた。

アク 「……え。全員いるの?」

仲間A「そんなの帰れるわけないじゃないっすかー」

仲間B「なんでもしますよ」

アク 「そうか。じゃあみんな大きい声で言えない内容だから全員前に集合!」

アクを囲むように人が集まる。


アク 「みんないいか? 今から約2ヵ月後の2月27日から新宿で大規模な展覧会がある。 持ち込まれるものは、世界最大のダイヤを始め有名画家の絵やエジプトのピラミッドから見つかった王冠までさまざまだ」

ミッキー「知ってるー。入場料確か2万円ぐらいじゃなかった?」

ユージ 「愛知万博でも4600円ぐらいだったのになぁ」

アク  「最後まで話聞いてくれな。 んで、そこで扱われる物の中に10億円ぐらいするネックレスがあるんだ。確か昔、ヨーロッパの方の王様が付けてたとかいう噂のやつだ。 それをどうしても欲しがっている奴が知り合いにいてな、盗ってきてくれって頼まれたんだ。だから、奪いに行くんだけど……」



アクはチラッと周りを見渡した。

アクの予想とは真逆にみんな目が輝いていた。

仲間C 「いいじゃないっすか! そういうルパン的なことずっとしたいと思ってたんすよ!」

仲間D 「俺の知り合いもそれ見に行くつってましたよ」

仲間E 「確か年末までそれやってますよね。いつにします?」

仲間F 「もっと仲間増やしましょうよ」

仲間G 「イヤッホオオオオオオオオオオオオオオオ!」

仲間H ≪10億……分け前はいくらだろ?≫

仲間I 「オラ、ワクワクしてきただ」

仲間J 「みなぎってきたー!」

仲間K 「おっしゃああああ!」

仲間L 「じゃあ僕は爆弾作りますね」

・・・。みんな好き放題いいだし収集がつかなくなってきた。

ユージ 「……爆弾とかいらんだろ……」


アク  「おーし! 80人か、やれるな!」


そして、詳しい話は来月の集会ですることになりみんな散らばっていった。

口止めは一応したが、裏切りそうな奴はいない。

裏切りたくても裏切れば後が怖いというのが本心だろう。


帰り道――。

仲間N 「いつかやると思ってたんだよなー。派手なことー。大丈夫かなー」

仲間M 「アクさんって元はマフィアらしいよ」

仲間N 「マフィアかー。そういえばそういう知人にもマフィアいるって話聞いたことあるー」

仲間M 「本当にどんな人生歩んできたんだろうね」

仲間N 「俺もアクさんみたいになりたいなあー」


――。

ユージ 「大丈夫かな? あいつら馬鹿そうだけど」

アク  「馬鹿とハサミは使いようだっけ」

ミッキー「こえー」

アク  「まぁー。面白くなるだろうね」


――。

一方アメリカ。



キョウ  <え? 父のノートですか?>

展覧会役員<はい。是非、今度日本で行われる博覧会に出展してほしいのですが>

キョウ  <は、はぁ……>


キョウはアクと二人でノートを取り返した後にアメリカに渡りラスベガス等でマジックショーをして生計を立てていた。

ラスベガスではつねに覆面で登場し素顔は表には出さないようにしていた。

覆面なのでいろいろな人が交代でやっているという説もあり注目を集めていた。

展覧会役員<大切な品物だということは良く分かります。警備は24時間しっかり行うのでお願いします>

キョウ  <それは当然でしょう。問題は金ですよ>

展覧会役員<そうですね。10万ドルでどうでしょう>

キョウ  <10万ドルか……20万ドルで手を打とう>

展覧会役員≪……まあいいか。どうせそのままパクって逃げるのだから≫


――。

キョウの元に現れたのは実は詐欺師だ。

日本で行われる展覧会自体は本物だが、その展覧会を利用して展覧会役員になりすまし世界中の宝を狙う組織が存在していた。


キョウ  <僕も暇なので日本に行きます。ここで渡すのは怖いのでそれでもいいですよね>

展覧会役員<そ、そうですか。かまいませんよ>

キョウ  ≪もしかしたら、アクにも会えるかもしれねえな。……あーでももう死んでる可能性の方が高いかな≫




世界中で宝物の奪い合いが始まりだした!


キョウは死んだことになっているので日本に入国するのは大変だったが偽装のパスポート等を使い密入国に成功した。

キョウが数年ぶりに日本に帰国した1週間後――。

詐欺師達は展覧会の役員を装い世界各国の王様や富豪を訪ね金品を狙う者達があとを絶たず被害は拡大していた。

そのことが明るみになると展覧会の主催者側はホームページ等で注意を呼びかけていた。


キョウ 「久しぶりの日本を満喫する前にノートを預けてくるか」

キョウはスケさんや他の執事とアメリカで雇っている優秀な女性のボディガードを引き連れて展覧会会場へ向かった。

女性のボディガードというのはアメリカではキョウの彼女ではないかと噂されているがそんなことはなかった。

そのボディーガードの名前はヘレン。年齢は28でキョウの1つ下。

イギリス生まれでイギリスの有名なボディーガードを育成する大学を卒業し、 たまたま卒業旅行でラスベガスに来た際キョウのマジックショーを見て自分をボディーガードにして下さいとキョウに頼んだのがきっかけだ。

基本的にヘレンは行動力があり正義感という面でも細かい部分まで徹底していた。

覆面をしているキョウをボディーガードしようと思った理由は、なんとなく面白そうだからということとアメリカで働きたいという気持ちが強かったためだ。

1ヶ月ほど様子を伺いある程度プライベートなことまで話せるような関係になったキョウは自分はもう死んでいることになっていることを話納得させた。


――。


スケさん 「ここです」

キョウ  「おー」

スケさんの運転で展覧会会場に到着したキョウはルイヴィトンのカバンの中に大事にしまってあるノートを確認すると展覧会会場の中へ入っていった。

会場は東京の新宿にある大きなビルだ。

会場の中はピカピカに掃除されており中にはすでに高級そうなつぼや王冠などがいくつか飾られてあった。

と言ってもまだまだフロアの大きさの割には品数が少ない状態だった。

キョウは詐欺師から貰った名刺を係員に見せると偽者だということを言われそこで初めて自分が騙されそうだったということ気付いた。

キョウ ≪……やべ、ちょっと天狗になってたけど俺用無し?≫

キョウがしばらく係員の前で黙っていると奥から本物の役員らしき人が出てきた。

白髪で白いヒゲをはやした50代ぐらいの男で体型はぽっちゃりした感じ。

スーツは高そう。でもネクタイはピカチュウだった。


その男は何度かキョウのマジックショーを見たことがあるといいだした。

キョウは自分が覆面でショーをしているので関係者以外の人間は自分のことを知らないと思っていたが マジックのネタがキョウの父親と似ていることやスケさんの存在からキョウが世界的マジシャンだったキョウの父親の息子ではないかという論争があった。


キョウ ≪詐欺師も俺がノートを持ってるって知ってた訳だしなぁ……≫

白ヒゲの男は意外と楽天的な考えの持ち主で1つでも多くの価値があるものを集めたいと思っていたのでキョウの持っているノートも預かることにした。

そのかわりキョウに払われる額は詐欺師の8分の1程度のものになってしまった。


お願いされる側は強気でいけるが、自分がお願いする側になれば弱い立場になるので金の額も大きく違ってくるのだった。


役員から当日のチケットをもらい会場から出たキョウ達。

キョウ 「まーいいか。あのノートの中身は全てコピーしてあるし完全に覚えているから」

スケさん「人生で二度も奪われることなんてないですよね」

キョウ 「あはは」

ヘレン 「ん?」

ヘレンはキョウの過去をあまり知らなかった。

――。



1ヵ月後。1月末日。

アク達の集会。

展覧会を襲うことが決まっているので話題はそればかり。


仲間O 「じゃあ適当にぶっこわしてもっていけばいいんすね?」

アク  「そう簡単にはいかないと思う。警備もそうとうしてくるだろうしな」

仲間P 「大丈夫っすよー。万引きなら得意ですしー」

仲間Q 「冷静に考えるとつかまったりするんだよな」

仲間R 「何弱気なこと言ってんだよ。余裕だろ」

アク  「まあネックレス1つなら客に紛れ込んで盗んだほうが良さそうだな」

ユージ 「確かに夜中のほうが警備はすごそう」

ミッキー「カモフラージュでビーズで作ったネックレスでもおいとくか」

アク  「それ面白いかもな」

仲間S 「もっと激しくいきましょうよ!」

アク  「落ち着けって。お前等は警備員から目を逸らせる役だな」

仲間T 「カメラとかあると思うんだけど」

ユージ 「その前にカギがあるよな。手に触れれるようにはしてないだろうし」

仲間U 「カギかー」

ミッキー「まあ、本気だしちゃえばガラスなんて割ってしまえばいいんだけどね」

仲間V 「つうかまず、会場の下見してないとダメでしょ」

アク  「そうだなー。各自で下見に行ってなー。なるべく怪しまれないようにな」

仲間X 「で、誰が奪うんですか?」

アク  「んー。やりたい人いる?」

仲間Y ≪ここはアピールチャンスか≫

仲間Z 「じゃー僕やりますわ」

アク  「お。その積極性がいいねー! 君に決まりだ」

仲間Y 「あ、みすった」


80人近い人が集まっているがいつもと違い静かで少し不気味だった。


それから少し内容を確認して集会は終わった。

――。

解散後。


ユージ 「どう考えてもカメラあるし、警備も凄そうだもんなー」

アク  「いっそのこと全てのお宝パクっちゃう?」

ミッキー「あはは。いくらぐらいになるだろ」

アク  「想像もつかねーし」


ユージ 「10億のネックレスなんて持ったら手が震えそうだな」

ミッキー「そんな体験もしてみたいよなー」


――。

当然アクはキョウが日本にいることを知らない。


警察もこの展覧会には各地で詐欺師達が動いていたりして警戒していた。


警察官は基本的には事件が起こったあとの処理をする。

警備員は事件が起こらないように警備する。

本来なら警察が事件が起こる前の段階の警備もするのが良いがそれだと人手不足なので警備員を使っている。

一般的にはあまり知られていないようだが、警備員は危険を冒してまで犯人を捕まえるようなことはしない。

まずは身を守り警察に連絡するのが警備員の役目だ。

――。

警察庁。

ゼンは同期の中で一番出世しており大分地位の高いところまで来ていた。

お前に将来の警察を任せるといった冗談も聞かされるほどだ。

ゼンも最近は少し時間に余裕ができ、知恵と食事することもあった。

二人は付き合っているのか自然消滅しているのかあやふやなところだったが食事を重ねるごとに関係は元に戻ろうとしていた。


――。

アクの自宅。

まだ、アクは隣に知恵のいるマンションにいた。

というか家に戻る日が少ないためただ所持品を置いているだけの倉庫のような形になっていた。


アク 「なぁ。ユージ、面白いこと考えた」

ユージ「え?」

アク 「俺達展覧会の係員になりすましてさ、そのままパクっちゃおうぜ」

ユージ「無理でしょ。できたら面白そうだけど」

アク 「どうなってるか一回見に行こうぜ。係員の衣装とか決まってたら盗めばいいし」

ユージ「まあ、暇だし行くのはいいけど」

ミッキー「下見、下見〜」


――。

アク達はネットで場所を探すと注意事項として詐欺師が出回っていることに気付いた。

アク 「詐欺師だって」

ユージ「まーそんなことするやつもいるわな」

ミッキー「今回は俺の女装いる?」

アク 「いらねー」


新宿に到着するとそっと会場であるビルに入ってみた。

アク 「入れるんだな」

1階のフロアが白いカーテンで仕切られている。

通路は確保してありエスカレーターやエレベーターで上の階へ上がれるようになっている。

会場の上のほうの階は今も営業中だという。


アクがキョロキョロしていると係員が近づいてきた。

係員 「何か御用で?」

アク 「バイトとか募集してません?」

ユージ ミッキー 「……」

係員 「バイトはちょっと雇ってないんですよ」

アク 「そうですかー」


アクが適当に係員と話しているうちにユージとミッキーはカーテンを少し開けたりして中の様子を見ている。


アク 「展覧会ってこのビル全体を使うんですか?」

係員 「いやー4階までですよー。今も5階から上は営業中でして」

アク 「あーそうですか。失礼しまーす」


アクはユージ達を引き連れてビルの外に出た。

アク  「中どうだった?」

ユージ 「もう結構品あったぞ」

ミッキー「カメラも結構あったけど」

アク  「んー。ロッカールームみたいなところ侵入したいなー」

ユージ 「っていうか、それができるなら金庫みたいなところ入って丸ごと盗めばいいんじゃなの?」

――。


2月27日。展覧会当日。

朝9時開店というのに前日から並ぶ人達が大勢おりその人気が分かる。

列の途中にもビルの中にも警備員がたくさん配置されており準備万全。

盗難防止のために品物に触れるとセンサーが反応する仕組みやボタン1つで出入り口を封鎖できる仕組みがとられていた。


展覧会のポスターを見ると一番の目玉とされているネックレスや王冠はビルの最上階においてあるという。

もちろんそれはビルの上までお客を運ぶためであり人気が集中するという予測の元そうなっている。

ビルの最上階は32階。1階〜4階と32階が展覧会

5階〜31階は普通にブランド物や高価な商品が陳列されている。


その展覧会の一番前に陣取っているのはアク達の仲間だった。

80人とはいかないが顔つきの悪い若者が20人ほど並んでいる。

ものものしい雰囲気で展開はスタートしようとしていた。


――。

朝8時。

キョウ 「ふぁー。せっかくチケットももらったんだし、会場にいかないとなあ」

ホテルに泊まっていたキョウもシャワーを浴び服を着替え出る準備をしていた。


――。

アクの仲間達がビルの前で座っていると一人の警備員が話しかけてきた。


 「君達も展覧会に興味あるのかい?」

仲間達  ≪……みきひささん!≫  (※ミッキーの本名)

仲間A  「なんで警備員の格好してるの」

ミッキー 「バーロー。声でけーよ。 俺達警備員になりすましてるから、よろしくな」

仲間B  「漫画の世界や……」


アク達が警備員になりすましていることは一瞬で仲間達に知らされた。

――。

9時。開店


アクは2階でボーっと突っ立ているとぞくぞくと下の階から人が流れてきた。

アク  ≪きたきた≫


ユージは4階。

ユージ ≪昼まで様子みて午後8時。日が暮れたら俺達の出番だな≫




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