完全犯罪 第4部 4ページ目 完全犯罪4部3ページへ戻る 下へ とーるは仲間に誘った男とピカイチの外で電話をしている。 とーる「もしもしーヒデか? 今からこれる?」 ヒデ 「ごめん、今から練習があるんだ。10時ぐらいに終わるんだけどそれからならいいよ」 とーる「今からって今3時だぞ。7時間も練習すんのか?」 ヒデ 「うん。もうすぐ大会があるんだよねー」 とーる「あれ? この前も大会あるって言ってなかったっけ?」 ヒデ 「あー、前言ってたのはバスケだよ。今度はフットサル」 とーる「フットサル?」 ヒデ 「うん。ちょっとメンバーが足りないらしくてさ」 とーる「そっかそっか、分かったじゃあ10時ごろにまた電話してくれ」 ヒデ 「分かった。悪いねじゃあまた」 とーる「あいよ」 とーるは電話を切った。 とーる「あいつ最初会ったとき、プロボクサーかプロボウラーになるって言ってたのになあ……」 --- 時間は流れ10時。 最初は真面目に話をしていたが新たな仲間が遅れるということで、軽く酒が入り旅行の思い出話と反省会をしながらカードゲームをしていた。 トランプで負けたミッキーにダーツを買ってこさせてダーツ大会。 旅行気分が抜けないアク達のテンションは高かった。 ヒデからとーるに電話があったのは10時10分頃だった。 ヒデはとーるに今から行くと言い電話を切った。 とーる 「今から来るって。ヒデって言うんだけど良いヤツだよ」 アク 「そっか。良いヤツならいいや。アハハ」 とーる ≪アク、酔ってる……≫ しばらくするとヒデを迎えにとーるが店から出て行った。 ミサキ 「どんな人だろーねー?」 まどか 「うんー。私は面白い人がいいかな」 ミサキ 「そうだよね、どうせならつまんない人よりは面白い人のほうがいいよねー」 ミッキー「でしょ、でしょー」 ミッキーが自分をアピールするように会話に入ってきた。 ミサキ 「あはは」 雑談をしているととーるがヒデを連れてやってきた。 とーる 「ただいま」 アク 「おー」 ヒデ 「どうもー。初めまして」 アク 「おーおはつー」 ユージ 「初めまして」 入り口の近くのソファーで寝そべっていたアクとユージがいち早くとーるの帰りに気付いた。 アク 「ヒデって言うんでしょー? 何歳ー?」 アクは軽く酔っているのか少しテンションが高い。 ヒデ 「えっとー18です」 アク 「そっかーじゃあ俺等とタメだねー」 ヒデ 「酒くさー」 ユージ 「アハハ、って何その髪色、ピンク?」 ヒデ 「はい」 とーる 「まあまあ、奥でゆっくり話そうよ」 アク 「それもそうだなー。とーるちゃん、手ー引っ張って起こして」 とーる 「とーるちゃんて……(笑)」 ユージ 「とーるちゃん俺も〜」 --- 店内の中心に用意した長細い透明なテーブルを囲むようにメンバー全員がソファーやイスに座っている。 ヒデ 「初めましてー。ヒデって言います。とーるからだいたいのことは聞いています。俺も参加したいのでよろしくです」 みんな心なしか顔が赤い。 ミサキ「ヒデ君は何歳なの? なんで髪ピンクなの?」 ヒデ 「えっとー歳は18です。髪色はービジュアル系目指してたんで」 ミサキ「えー。バンドしてんのー?」 ヒデ 「いやーちょっと前やってただけなんですよ」 ミサキ「へーそうなんだー」 一通り自己紹介が終わり午後11時。 とーる「そういえばさ、ヒデちょっと前プロボクサーになるって言ってなかった?」 ヒデ 「あー、いつも何かを始めるときは一応プロを目指すんだー」 とーる「ほお」 アク 「いつも何かって他には?」 ヒデ 「えーっと、将棋、囲碁、サーフィン、空手、柔道、剣道、短距離、ボーリング、ゴルフ、バスケ、サッカー、野球、お笑い、歌手、んでボクサーでしょ。んであとはー……」 アク 「え? 何んて?(笑)」 けんた「多趣味だな(笑)」 ミッキー「あはは」 ヒデ 「多趣味ですかねー? どれも面白いんですよ」 アク 「で、今何やってんの?」 ヒデ 「今日フットサルの試合がありまして今度はそうですね。ビリヤードでもやろうかなって」 アク 「いやいや。学生じゃないの? 専門学生っぽいんだけど」 ヒデ 「いやー、そんな頭良くないっすからー。あはは」 ヒデのことがもっと知りたくなったアク達は一からヒデの話を聞くことにした。 ヒデは仲間にしてもらうには当然のことだと思い最初から話し出した。 ヒデ 「長くなりますけどいいですか?」 カネイチ「今日は休みだ。何時間でも話してくれ、俺はそのうち寝ると思うが」 ヒデ 「じゃあ、遠慮なく」 ヒデは語った。 まず、小学生のとき祖父から将棋、囲碁、ゲートボールを教えてもらい祖母からは編み物や料理を習った。 どれもやりだすとすぐにコツを掴んだと言う。 ヒデは自分が教えてもらった人より上手くなるとそれを止めてしまうことが多いらしい。 そして小学生高学年で習った水泳では、いつまで経っても先生より早く泳げないので半年ほどでやめてしまった。 そして中学へ行くと、剣道、柔道、バスケ、サッカー、野球、バレー、ハンドボールなど運動部をそれぞれ経験した。 先生には「どれか1つのことを一生懸命やりなさい」といつも怒られていたというがそんなことは性格上できなかったという。 中学を卒業して高校へ行くと女子にモテたいがためバンドを始めた。 ギターを持ち歩く日々が続いたが、高2になる頃にはサーフィンをしていたらしい。 高校生のときに付き合っていた彼女がゴルフをやっていたためヒデもゴルフを始めたがあっという間に彼女より上手くなってしまったため、やめてしまい彼女ともそれが原因で別れたらしい。 彼女がいなくなってからは、カラオケやボーリングをすることが多くなりお金を稼ぐために路上で仲のいい友達と漫才のようなことをしていたらしい。 そして高校を卒業した今は進学もせず就職もせず、バイトもせずで、毎日を趣味に使っていた。 何をやるにも金がいるのだが、高校生までは親からお金を貰うことが多かったが学校へも行かないヒデにとうとう親も金を渡さなくなった。 金が尽きる頃、人を殴って金になるというボクサーの道に進むも『人を殴る前に自分が殴られる』ので三ヶ月ほどでやめてしまった。 それから、最近はキャバクラに夢中になってしまい借金生活をしているという。 そんなときにとーるから仲間の誘いを受けたのだ。 ヒデととーるとの出会いはとーるのバイト帰りにキャバクラからすごい勢いで追い出されたヒデをとーるが発見し声をかけたことがきっかけである。 カネイチ 「Zzz……」 アク 「ふーん」 ダイスケ「そんな多趣味ってありえるの?」 ユージ 「さあ?(笑)」 とーる 「凄いやつでしょ(笑)」 アク 「うん、たぶん人に流され易いんだろうね」 ヒデ 「そうですね。なんかカッコ良いとか、面白そうとか、儲かるかも? とか思うととりあえず始めちゃいます」 アク 「あはは」 ゴウ 「バイクは興味ないのか?」 ヒデ 「あー。高1のときちょっとだけハマりましたねー」 ゴウ 「おお」 アク 「スロットは?」 ヒデ 「スロット? そんなお金ないですよー」 ダイスケ「丸っこい顔して多趣味なんだねー」 ミサキ 「顔の形は関係ないでしょー(笑)」 ダイスケ「あははー」 ヒデ 「愛嬌のある顔って言われますよー」 ミッキー「愛嬌なら負けないよー」 ヒデ 「おっ!(笑)」 ミッキー「あはは」 アク 「んで、キャバクラにいくら借金があるんだ?」 ヒデ 「えーっと40万ぐらいですかねー」 アク 「40万かー。安いなあ」 ヒデ 「安い?」 アク 「この子(ミサキ)なんて一ヶ月親から40万貰ってるし」 ヒデ 「えー? すごいですねえ。親は会社経営でもしてるんですかあ?」 ミサキ 「あーそんなもんかな(笑)」 ヒデ 「いいなーそんだけあれば一生好きなことやっていけるねー」 ミサキ 「私、ヒデ君みたいに趣味ないからー」 ヒデ 「あーそっかあ。普通そうですよねえ」 ほのぼのと話している中、アクが切り出した。 アク 「そういや、ヒデって今までなんか犯罪したことある?」 ヒデ 「えー? 犯罪ですかあ? サッカーとかバスケならよくファール貰いますけど(笑)」 アク ≪だめだこりゃ(笑)≫ ヒデ 「そうですね。高2のときバスガイド犯したことありますよー」 アク 「はぁ?(笑)」 『バスガイド犯した』というキーワードで今までぐっすり寝ていたカネイチがムクっと起きた。 カネイチ「何々? バスガイド犯したって?(笑)」 一同爆笑 ヒデ 「はい。 修学旅行のとき友達と」 ユージ「なにそれ? ボケじゃなくてマジなんだ?」 ヒデ 「はい。 あれはドキドキでした」 アク 「なにやってんだよ(笑)」 ヒデ 「相手もやめてとは言ってたもののなんか最後は受け入れてましたよ」 ミサキ「最悪〜」 まどか「最悪ですね」 ヒデ 「ああ、ここ女子がいるんだった(汗)」 ヒデも酒が入ったせいかぶっちゃけ話をするようになったが、それがアク達にとっては好印象を与えたようだ。 アク 「お前丸っこい顔して面白いなあ。よーし、俺達も面白いもの見せてあげようぜ」 ダイスケ「あれだな(笑)」 カネイチ「よいしょっと」 カネイチは立ち上がると金庫のあるほうへ歩いていき拳銃を持ってきた。 カネイチ「ほらよ」 カネイチはアクに拳銃をそっと投げた。 アク 「これこれ」 ヒデ 「え? 本物ですか?」 アク 「あはぁ。嘘だと思う? 頭に向けて一発撃ってやろうか? あはは」 ヒデ 「いやいや」 みんな酔っていて、なにが起こっても不思議ではない。 ヒデはアクから拳銃を渡されるとその”本物の重さ”に驚いた。 ヒデ 「重いですね」 アク 「あぁ、一キロぐらいはあるんじゃないか」 ヒデ 「本物だ」 ヒデは酔いが冷めた。 アクは財布から現金40万を出すとヒデに渡した。 アク 「もうお前は仲間だ。これ貸すから今すぐキャバクラいって返して来い」 ヒデ 「え?」 アク 「いいから行けって。はやくしないと撃つぞ?」 アクはまだ旅行のためにおろした金がそのまま財布に入っていた。 ヒデ 「ありがとうございます」 ヒデはコップ一杯の水を一気に飲むと金を持ってピカイチから出て行った。 アク 「あいついいやつだな(笑)」 ユージ「器用そうだし。犯罪に使えるかどうかは分からないけどきっと役に立つ」 アク 「大丈夫、あいつは俺好みだ――」 --------------------------------------------------------------------- これは、アク達が世界旅行に出発した日の約1ヶ月ほど前の話になる。 愛知県、三星高校のそばのとある一軒家。 つねお 「もー、2ヶ月も更新されてないじゃないかー!」 つねおはなべが毎日一生懸命更新していたホームページが一切更新されないことに苛立ちを感じていた。 つねお 「あれ待てよ。そういえば東京でアク達と会ってから更新が止まってないか?」 なべの運営していたホームページは一日数万人が訪れる優良サイトでヲタクなら誰もが知っているサイトだった。 つねお 「なべ様にメールを送っても返信がないし。某掲示板では一切姿を見なくなったとか……」 以前にも更新がパタリと止まったことがあるがその際はちゃんと休止するとトップページに報告があった。 つねお 「更新が止まると愛知にいる俺にとってアキバの情報が遅れるんだよなっ☆ミ 」 つねおはアク達がなべのことを知っていると確信しアク達を探す旅に出ようとした。 つねお 「ミッキーも番号変えたの教えてくんねーしー」 つねおはとにかくあるだけの金を持って一路東京へ向かった。 新幹線の中。 つねお 「夏休みに入ったことだし、金が尽きるまでアク達を探すぞ」 つねおはなべのオフ会でよく会う知人にもメールをし東京で会う約束をしていた。 つねお 「待っててね、なべ様☆ミ 」 ――。 つねおは東京に着くと待ち合わせ場所である秋葉原へ向かった。 猫耳を付けたメイドの格好をしたお姉さんがたくさんいるカフェへ。 つねおがその店に着くと、良くなべのオフ会で会う知人が既に席に座って待っていた。 つねお 「おー古田さん」 古田 「よー、ミッドナイト」 つねお 「毎度の事ながら、ハンドルネームはやめてくださいよ」 古田 「あーごめんごめん。のりお君」 つねお 「つねおです」 ……。 本題に入る前につねおは最近買ったフィギアを古田から永遠と自慢された。 古田はメガネが良く似合う、年齢はつねおの2つ上。 家は東京で情報系の専門学校へ通っている。 古田の行っている専門は卒業するまでに3年かかる。 古田 「すいまーせん」 と、古田は猫耳店員を呼んだ。 古田 「ニャンニャン定食とニャンニャンマッサージを10分間お願いします」 つねお 「え? なんですかそれ?」 古田 「知らないのかよー。当然か、最近できたサービスだからなぁ。 ニャンニャン定食は好きな店員さんを一人選んでその子が俺がメニューにある料理から好きなのを選んでそれを作ってくれるんだよ。 あとマッサージは1分100円で、それも好きな子がしてくれるんだ」 つねお 「そんなのあるんですかー」 古田 「競争を勝ち抜くためのサービスだろうね。ここら辺はこういう店多くなってきてるから」 つねお 「こっちの世界もいろいろと厳しいんですね」 つねおは自分の隣で幸せそうな顔をして肩揉みされている古田を見てうらやましくなったのかふと、財布の中をみた。 つねお 「8万か」 つねおは最近古本屋でバイトをやっていたので少々の金は持っていた。 しかし、アクを探すために東京に着たのでいつアクに会えるかはわからない。 そんな中つねおが取った行動は……。 つねお 「す、すいません。店員さんマッサージ20分お願いします」 ……。 二人並んで肩揉みをされながらなべの話へ。 つねお 「なべ様ってどこ行ったんでしょうねー」 古田 「本当だよなー。秋葉原から抜け出せるような人ではないと思うんだけどなー」 つねお 「そうですよねー。あのサイトも確か3ヶ月ぐらい更新がされないと削除されるらしいじゃないですかー」 古田 「そっかー。もうそろそろ更新しないとまずいんだねー」 つねお 「はいー」 肩揉みをされているせいか、口調が柔らかくなっている。 つねお 「僕の知り合いがなべ様のこと知ってると思うんですけど、一緒に探しません?」 古田 「その予定だろー。んでその人はどこにいるんだよー?」 つねお 「ホストしてるっていうのだけは知ってるんですけどねー。名前は後藤アクっていうんですよ」 古田 「へー。アクって本名なのー?」 つねお 「はいー。あの、あきあゆって知ってます?」 古田 「知ってるよー。全CD持ってるから」 つねお 「その二人と仲がいいんですよ」 古田 「マジに〜? すげーじゃん」 つねお 「僕はあゆのほうしか知らないんですけどねー」 古田 「お前すげーなー。昔からあんな可愛かったの?」 つねお 「そりゃもうー。高校のときはたぶん男子全員狙ってましたって」 古田 「そりゃそうだよなー。彼女にしたい芸能人ランキング4位だったし」 つねお 「あーそれ僕も見ましたよ」 古田 「まー俺達には遠い世界だよなあー」 そんな話をしてつねお達は店を後にした。 つねお 「とりあえずなべ様がいつも通っていたと思われる店へ行きましょう」 古田 「そうだな。俺も欲しいものあるし(笑)」 つねお達は秋葉原を楽しんだ……。 道を歩いていると 古田 「そうそう、つねお、ゆきって知ってるか?」 つねお 「ゆき? 歌手ですか?」 古田 「違うって男だよ。この前新聞で18歳お手柄ってやつ、あれ東京だけなのかな」 つねお 「それがどうしたんです?」 古田 「いやーゆきってやつさー東大生で探偵してるらしいんだ。なんか漫画の主人公っぽいと思ってなあ」 つねお 「へー。頭良いんですねー」 古田 「それも1つや2つの事件じゃないんだぜ、もう4月からで7件ぐらい犯人捕まえてるって。ネット上でも結構噂になってる」 つねお 「すごいですねー。そんだけ有名ならブログでも作ってそうですね」 古田 「たぶんやってるはずだよ」 つねお 「そうなんですかあ。僕、イラストサイト中心に見てるだけなんでそういうのあまり知らないんですよね」 古田 「そっかあ、お前らしいなあ」 いつの間にかつねおと古田のカバンには来年のカレンダーや水着の格好をしたフィギアがたくさん入っていた。 つねお 「あと3万しかないやー」 そうして日が暮れていった。 午後9時。つねお達は歌舞伎町へ。 古田 「ここ一軒一軒回るのはさすがに天文学的に無理だろー?」 つねお 「テンモンガク?」 古田 「いやー気にすんな、気にすんな。そういや後藤アクってやつの家族には聞いたのかよ?番号?」 つねお 「あ! 聞いてないです」 古田 「バカかーお前、本当にあほだなー」 つねお 「アハハ」 古田 「アハハじゃねーって、ここ探すよりアクってやつの家行って番号聞いたほうが早くないか?」 つねお 「それもそうですね」 古田 「だろー。もうここ(歌舞伎町)は俺達の守備範囲じゃないからアキバ戻ろうぜ、夜にしかないサービスもあるんだぜ」 つねお 「そーなんですかー。行きます、行きます。そして明日帰ってアクの実家行って見ますね」 古田 「おう、そしたらまた連絡してくれ」 つねお 「はい」 ピカイチの入り口前でそんな会話をして二人は秋葉原へと帰っていった。 翌日、つねおはしっかり金を使い切って愛知に帰ってきた。 つねお 「はー、楽しかったなあ」 つねおは家に帰ると中学生のときから使っている自転車でアクの家へ向かった。 アクの家は同じ高校だったことから友達伝えに聞いてなんとか知ることができた。 「ピンポーン!」 つねおはアクの家のインターフォンを鳴らした。 中からアクの母親が顔を見せた。 アク母 「こんにちはー」 つねお 「すいません、アク君と同じ高校だったつねおと言う者なんですけどアク君は今どこに?」 アク母 「知らないわよ。アクならたぶん東京か大阪にいるんじゃないかしら?」 つねお 「たぶん、東京ですよ。すいませんが携帯番号とかってわかります?」 アク母 「ごめんねえ、知らないんだよ。あの子ったら教えてくれなくてねえ」 つねお 「……そうなんですか、わかりました、失礼します」 つねおは自転車にまたがり帰宅していった。 その背中は心なしかいつもより小さく見えた。 つねお ≪あれ……俺なにしてんだろ……≫ 帰宅するとき少し遠回りになるが姫野あゆみの家を見て帰って行った。 つねお 「どうしよ」 つねおは帰宅するといつものようにパソコンの電源を入れた。 古田にメール。 つねお 【すいません。アクの実家に行ったんですけど携帯番号もどこにいるのかも知らないみたいで何も情報を得られませんでした(´Д⊂)】 古田 【乙。だったらもう探すしかないよな。 俺の専門の友達に須賀ってやつがいるんだけど、そいつあのゆきってやつと同じ高校だったらしくて ちょっとコネがあるらしいからゆきってやつに頼んでみるよ】 つねお 【わかりました。僕はネットであのサイトを復活させたいと思っている人達を探してみます】 古田 【わかった。お互い全力を尽くそう(・∀・)】 つねお 【はい('A`)】 不思議な顔文字を入れつつもつねおと古田のメールは終わった。 つねおはなべが主催していたオフ会に来ていたであろうメンバーがよく行くといっていたサイトを訪問しその管理人にメールを出した。 つねお 【突然すいません。ミッドナイトと言うものなんですが、nabeさんの『AKIBA-BIBA☆ミマニア』というサイトご存知でしょうか? その管理人さんが行方不明で今探しているんですが協力してもらえないでしょうか?】 返信がすぐにきた。 【初めまして、チャーリンです♪ 私もnabeさんが更新してないことがちょっと心配だったので協力しますよ。 具体的にはなにをやればいいですか?】 つねお 【ちょっとサイトでnabeさんのことを知っている人を集めたいんです。掲示板を設置してもらえれば嬉しいです】 チャーリン【分かりました。明日にでも掲示板をつけておきますね】 つねおはそれからそのチャーリンが運営する大手イラストサイトでなべを探すメンバー集めに勤(いそ)しんだ。 古田は夏休みにも関わらず専門ということで忙しく学校へ行っては勉強していたが、 須賀と話す機会があったのでそっとゆきにお願いしてくれるように頼むと 須賀もゆきも快くなべを探すことを了解してくれた。 古田の知り合いの須賀はゼンの通っていた高校の剣道部の主将でゼンとゆきとはあの賭け試合以降徐々に仲良くなっていた。 ――。 ゆき ≪人探しですか。丁度夏休みだし、いい課題ができた≫ ゆきはある人物に電話した。 ゆき 「もしもし。ゼン君? 今度は人探しですよ」 ゼン 「人探しですか? この前のペット探しより簡単そうですね(笑)」 ゆき 「そうだね。ペットは大変だったー、また二人で探そうね」 ゼン 「はい、いいですよ」 ゼンがアク探しに動き出した! ――。 一方つねおは、ネットで情報を集めている。 秋葉原の電化製品売り場からフィギア、メイドカフェ。 なべがよく行っていた店の店員からの情報が掲示板やメールよりどんどんつねおの元へ集まってきた。 つねお ≪やっぱり目撃している人はいない、か……≫ 「カタカタカタカタカタ……」 つねおのタイピングは速い。 つねお 「どうしようか。警察に連絡した方がはやそうだなあー。掲示板に後藤アクとか書いちゃまずいだろうし……」 つねおは携帯電話を手に持った――。 つねお 「もしもし、警察ですか?」 警察官 「はい 110番です」 つねお 「捜索願いってできます?」 警察官 「身内の方ですか?」 つねお 「いえ、そうではないですけど」 警察官 「既に捜索願いが出されている可能性があるので誰なのか教えて下さい」 つねお ≪あ・・・しまった! なべ様の本名わからない!≫ つねお 「えーっと、あーっと、えっと、なべ・・・」 警察官 「ん? なべ? イタズラ電話ですか? 探知機ありますので住所分かりますよ」 つねお 「あ、いえ、あの、その・・・」 ――。 翌日。 ゼンはゆきと本格的に人探しをしようと自宅へゆきを呼んだ。 ゼン宅、リビング。 最初雑談をして、いよいよ本題へ。 ゼン 「今回は誰を探すんですか?」 ゆき 「えっと、本当に探すのは『なべ』って人なんだけど」 ゼン 「な、なべ? フルネームは分からないんですか?」 ゆき 「うん、僕も聞いたんだけど、何かネットの人らしくて、本名はたぶん、渡辺だとは思うって」 ゼン 「……渡辺っていうのも推測でしょう。フルネームが分からないとなると大変ですよ。写真はあるんですか?」 ゆき 「写真一応あるけど」 ゆきは自分の携帯を出しなべの写メをゼンに見せた。 ゼン 「……これですか? あと年齢は?」 ゆき 「うん……。年齢は不詳です……」 心なしか外ではカラスが鳴いたような気がした――。 ゆき 「写メ1枚となべ、良く出現していた場所は秋葉原でネット上では結構有名人だったらしい」 ゼン 「それだけじゃいつまで経っても探せないですよ。他にはないんですか?」 ゆき 「あ! 忘れてました。そうだった」 ゼン 「そうだった?」 ゆき 「えっと、実はなべって人を探すより『後藤アク』って人を探して欲しいと」 ゼン 「後藤アクですか?」 ゆき 「後藤アクって人は僕達と同じ年で東京でホストをしているらしいけど」 ゼン 「同い年って酒飲めないですよね。まぁいいです写真はありますか?」 ゆき 「これもまた写メールなんだけど」 ゆきはつねおの撮った高校の卒業写真のアクの写真をゆきは持っていた。 アクの写真はつねお→古田→須賀→ゆきという経路で渡っていったものだ。 ゼン 「おお」 ゼンがアクの顔を見たのはこれが初めてだった。 ゆき 「でも今ホストやってるっていう話だから髪型とかも違うかもね」 ゼン 「そうですね。でも目に特徴ありますから分かりますよ」 ゆき 「この写真を手掛りにホストクラブ当たってみる?」 ゼン 「なべって人がネットで有名だったらきっとネット上でもいないことは噂になってるはずですからネットで情報集めてみましょう」 ゆき 「そうだね。まずは情報集めたほうが良さそう。なべって人に借金とかあったら夜逃げとかの可能性もあるし」 ゼン 「そうですね」 ゼンは、リビングにある家族兼用のパソコンの電源を入れた。 「カタカタカタカタカタ」 ゼンも慣れた手付きでタイピングをする。 ゆき 「はやいねー」 ゼン 「父さんに手の置く位置から教え込まれました」 ゆき 「あはは……」 ゼン 「なべ 秋葉原 とでも検索すればヒットしそうですね」 ゆき 「そうだね。こういうことは僕が家でしておくべきだった」 ゼン 「いやいや、二人で見たほうが見落としが少なくなるからいいですよ」 ゆき 「本当に優しいね、ゼン君」 ゼンは少し顔が緩んだ。 検索すると……。 ゆき 「うわーたくさん出てきた」 ゼン 「これは凄いですね。一番上から見て行きましょうか」 ゼン達の人(なべ・アク)探しは難航を極めた。 警察の協力がないこと、人を探すという労力は予想以上の体力を使い、素人がすぐに探し出せるというものではなかった。 時は流れ――。8月に入った。 8月になってもまだ探せないでいるゼン達。 ネット上で次々となべと交流のあった人物のサイトで呼びかけが始まり、大手ポータルサイトのニュースにもなった。 つねお 「また、こんなメール送りやがって。なべは死んでる。だなんて……」 つねおも、もしかしたらなべが死んでるのではないかと心の片隅では思っていた。 でも実際のメールで「死んでいる」と書かれると、もしかしてが「そうかも」に変わってしまう。 つねお 「いや、絶対生きてる」 そんなときだった次々と送られてくるメールを読んでいると つねお 「なべ様の家知ってます?」 つねおは目を疑った。 なべは人に家を知られるのが嫌で知られたら引越しを繰り返していると聞いたことがあったからだ。 つねお 「俺も今の家知らないのに」 なべは高価なフィギアやレアモノのアイテムを持っていることで有名で泥棒が入ることを嫌っていたし、その前に拳銃やドラッグを所持していたから。 ダイスケがなべの家を知っていたのは101事件のために仲間にしたのがきっかけでそういう大事な仲間にだけは家を教えていた。 つねお 「一歩進んだかな」 つねおはそのメールの送り主とメールするようになった。 すぐに連絡を取り合い、なべの家につねおと古田とメールの送り主まゆ(女・23歳)でいくことになった。 東京、秋葉原。 駅前で待ち合わせ。 「初めまして」という挨拶も早々になべの家に向かった。 古田 「ミッドナイトさー。まだ金あったんだね?」 つねお「だから、ハンドルネームはやめてくださいよ。お金はバイトの店長に前借りしてきました。人生の汚点ですよ」 古田 「アハハハハ。 お前がいまさら、汚点と言う言葉を使うとはね」 つねお「もー」 まゆ 「こっちです」 まゆから事情を聞くとまゆは昔メイドカフェでバイトしていたことがあったらしく、なべとは3週間ほど付き合ったことがあったらしい。 体の関係はなく、なべから告白したもののあまり遊んでくれなかったので別れたらしい。 「なべがいない」というネットの噂もすぐに気付いていたがなかなか勇気が出ずに、メールが送れなかった。 あまりにも、なべがいないということがいろいろなサイトで言われるようになったのでまゆは思い切ってつねおに住所を教えることにしたのだ。 まゆ 「私が住所教えたことは絶対内緒ですよ」 つねお「はい。感謝しています」 まゆ 「あそこの角を左です」 まゆの案内でついになべのマンションへついた。 つねお「8階建てですか。すごいですね」 改めてなべの凄さに驚くつねお。 まゆは慣れたようにマンションの中へ。 アク達と同じように警備員のいるドアをノックした。 「トン、トン。すいません、居ますかぁ〜?」 しばらくすると警備員が現れた。 警備員 「なんだね?」 まゆ 「久しぶりです」 警備員 「あ! まゆちゃん」 まゆ 「ちょっとなべさんの最近見かけてます?」 警備員 「いやね。それが全くなんですよ。郵便物も溜まっちゃって」 まゆ 「私達探してるんですけど、部屋見えてもらえません? 何かあるかもしれない」 警備員は振り返りドアに顔だけを入れて中の仲間の警備員と何か話している。 警備員 「昔。まゆちゃんが作ってくれたお弁当の恩返しということで」 まゆ 「やったー」 つねお 古田 「どんな関係だよっ!」 まゆ 「昔、付き合ってたとき なべさんがいないときはここで遊んでたんですよ。あの人いつもこっちから電話すると出てくれなくて」 古田 ≪釣った魚にはエサあげないってか・・・≫ つねお 「すいません、警備員さん。なべさんの本名わかります?」 まゆ 「それなら私知ってるよ。昔教えてくれなかったら隠れて免許証みちゃったことあるし」 つねお 「おおお」 まゆ 「確かね。渡辺コウジ」 つねお 「普通ですね」 吉田 「何期待してたんだよ」 ……。 つねお達はなべの部屋へ。 「カチャ」と警備員がドアを開けた。チェーンはアク達が切ったままだった。 警備員 「これは帰ってきてなさそうですねー」 つねお達は靴を脱ぎそーっと部屋の中へ。 フィギアがところ狭しと並んでいる。 アク達の片付けが良かったのか荒されてる形跡は無い。 つねお 「置手紙なんてないですよね」 古田 「やべー、欲しいのいっぱいある〜♪」 つねお 「それはいわない約束でしょ〜♪」 フィギアを見ているだけでうっとりしてしまう二人。 警備員を含む4人はしばらくなべの部屋でなべの手掛りになるようなものを探していた。 ――。 一方ゼン達は。 ゆき 「はー。手掛りが増えないー」 ゼン 「もう8月ですし、一たんここで諦めましょう」 ゆき 「え?」 ゼン 「一回頭を冷やすというか、忘れてまた新しい方向からアプローチしましょう」 ゆき 「ゼン君がそういうならいいですけど」 ゼン 「実は家の手伝いをしろと父さんに言われてまして、あとちえさんとも旅行に……」 ゆき 「え? あーそうなの」 ゼン 「はい。8月は予定があるんですよ。また旅行から帰ってきたらやりましょう」 ゆき 「それもそうだね。別に仕事って訳じゃないんだし。せっかくの夏休みを満喫しないとね」 ゼン 「はい」 ゆきはこのとき思った。 一人でなべを見つけてゼンを驚かしてやろうと。 ゆき 「うんじゃあ、そういうことで♪」 それからゼンはちえと愛知に旅行することになる。 神様の楽園でラーメンを食べ、後藤アクについても気にかけてはいたがまさかそんな身近にいるとは思っていなかったし まず旅行を楽しむというのを一番に考えていたから愛知で後藤アクと言う言葉を一度も口にすることはなかった。 ――。 ゼンもちえとの旅行が済み、アクも世界旅行から戻ってきたときのころ。 つねおは本名がわかったことをゆきに伝えていたがゆきはゼンに気を使っていてそれを教えずに一人で捜査していた。 つねお達もなべを直接探すよりアクを探すことを念頭に置き行動するようになった。 ゆきもなべは本当に手掛りがなくアクを探すことに。 8月26日。 ゼンからゆきに電話し残り少ない夏休みをアク探しに当てることにした。 ゆき 「あーーーー。ずっと探してたのに。いつも人違いだったよ」 ゼン 「そうだったんですか」 ゆき 「やっぱ自分一人じゃ探せないんだー」 ゼン 「落ち込まないで下さいよ」 ゆき 「そうだ。なべって人の本名がわかったんだよ。渡辺コウジ」 ゼン 「そうなんですか」 いつしか、ネットでなべを探したものに懸賞金が懸けられていた。 ――。 一方アク達。 ヒデと遊ぶことが多くなったアクとユージとミッキー。 ヒデの案内で東京中を遊びまわる日々が続きヒデもピカイチで雇われることに。 8月26日の夜11時。 店で働いていると、ダイスケがアクを呼んだ。 アク 「どうした?」 ダイスケ「何かやばいぞ。ネット上でなべを探しているやつがいる!」 アク 「は? どういうことだ?」 ダイスケ「たぶんだけど、なべちゃんアキバで有名だったからたぶん殺されたこと知らずに探してるんだよ」 アク 「なんか嫌な感じがするなあ」 そんなときだった。 アクの携帯が鳴った。 アク 「凄く嫌なタイミングだな……」 次のページへ トップページへ戻る |