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完全犯罪 〜ゼン〜 2部 1ページ目

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最終更新日7月17日



何事もなく入学式が終わり・・・4月10日。

ゼンとゆきが放課後二人で話していた。

ゆき 「毎日緊張するねー。なんか疲れるよ」

ゼン 「そうですね。クラスもまだ全然まとまってないし疲れますね」

ゆき 「はあー。ところでゼン君は高校でも剣道やるの?」

ゼン 「え?やろうとは思ってますよ。昨日先輩が誘いに来ました」

ゆき 「そっか、ゼン君有名だしね」

ゼン 「有名ってほどでもないですって」

ゆき 「いいなあ。得意なものがあるって」

思わずゼンは言った。

ゼン 「ゆき君だって得意なものあるでしょ?」

ゆき 「え?俺の得意なものってなに?」

逆に質問されて困ったゼンは・・・

ゼン 「優しさ・・・ですかね?」

ゆき 「へ?」

妙な空気になった・・・。

ゼン 「ところで今日はなんだかいつも残っている人がいないですね」

ゆき 「さっき廊下で誰か話してたけど武道場でなんかあるみたいだよ」

ゼン 「武道場ですか・・・?」


そこへ・・・剣道部の3年がゼン達のクラスにやってきた。


剣道部3年 「おおお。まだいたか。よかったよかった。俺だよ昨日話した須賀(すが)だ。」

ゼン 「あ!須賀さん」

須賀 「昨日の剣道部入るって言ってたよな?」

ゼン 「あーはい」

須賀 「よし!じゃあ今すぐ武道場に来い」

ゼン 「え? 今からですか? 何も持ってませんよ」

須賀 「なんでも揃ってるから来いって」


強引に呼ばれたゼンは仕方なく武道場へ行くことにした。

ゆき 「俺もついてきちゃったけどいいかな」

ゼン 「ゆき君も入れとか言われたりして(笑)」

ゆき 「冗談やめてよ(笑)」


歩きながら話していると武道場へついた。


須賀 「連れてきたぞー」


「おおおーー!!!」


ゼンの目の前には4,50人の生徒がコートの周りにいた。

ゼン 「え?」

須賀 「いやあ。驚かしてごめん。ゼン君の剣道が見たいって」

ゼン 「突然困りますよ」

須賀はゼンに耳打ちした。

須賀「ここで勝てば一気にモテルぞ?」

確かにコートの周りには女子もた15、6名ほどいる。

ゼン 「えぇ・・・」

ゼンが困った顔をしていると須賀がゼンの手を持ち武道場の隣にある剣道部の部室へ連れて行った。

須賀 「悪いな。ゼン君頼むよ。相手はさっきジャンケンで負けた古賀(こが)って奴なんだけどたいした事無いから」

ゼン 「分かりましたよ。何言ってもやらないといけないような状態ですしね」

須賀 「ありがとなー」


ゼンはロッカーに置いてあった古い防具を身にまとった。

須賀 「さすがに似合うねえ。これ使って」

須賀はゼンに竹刀を手渡した。

ゼン 「本気でやりますよ」

須賀 「もちろん」

須賀はニコッと笑った。

実はこの試合は剣道部が遊びで賭けをしている。

顧問の先生が出張でいない今日を狙って行ったもので
ゼンの対戦相手の古賀(3年)は2年のときの春の都大会でベスト8という実力者で段位は3段である。

ちなみに須賀は剣道部主将で古賀より上手く同じ大会でベスト4の成績を持っている。

須賀 ≪ゼンが負ければ俺達に1万か・・・≫

剣道部の中にはゼンの大会をビデオで見ている生徒もいてそいつ等はゼンに賭けていた。

他のギャラリーは面白いイベントがあると情報を流して勝手に集まった生徒で賭けのことは知らない。

ゼン 「でも、なんでこうなるかなあ・・・」

ゼンは不本意ながらも武道場へ足を運んだ。


ゼンはコートに入る前に一礼した。

女子生徒A「ゼンって人カッコいいね」

女子生徒B「うん。似合ってる」


古賀もコートの前で一礼するとお互いがコートの中に入った。

須賀が審判。

須賀は赤い旗と白い旗を両手に持った。


古賀 ≪中学生チャンピオンつってもしょせん中坊の中で1番なだけ。俺に勝てるハズない。それに高校からは「突き」があるんだ。突きで一撃さ≫

古賀は自信に溢れていた。

ゼン ≪この人・・・強いな≫

ゼンはまだ試合が開始してないにも関わらず古賀が強いことに気付いた。

ゼン ≪でも・・・負けませんよ≫

開始直前のことだった。ちえが武道場にやってきた。

ゆき 「あ!ちえさん」

ちえ 「遅いよー。ずっと校門で待ってたのになにしてんのよ?」

ゆき 「いや、今ねゼン君が試合するの・・・」

ちえ 「え?ゼン君が試合するの?」

ゆき 「今あそこのコートで座っている右がゼン君だよ」

ちえ 「うっそー?私ゼン君の試合姿見たこと無いんだよね」

ゆき 「そうだったの?」

ちえ 「ゼン君勝つかなー・・・」


ちえが武道場に来たことはゼンは知らない。というか集中しすぎてて気付かない。

ゼンは古賀の目だけを見ていた。

須賀 「では試合を始めます!」



「おおおー!」

試合開始時には4、50人いたギャラリーが80名近くになっていた。

それは体育館でバスケやバレーをしていた生徒達も武道場へ集まっていたからだ。


古賀 ≪人・・・増えてるな絶対負けられれねェ≫

ゼンは集中しているため周りのギャラリーが増えたことに気付かない!


須賀 「両者前へ!」

須賀の声でゼンと古賀はコートの中央へ移動し竹刀を前へ突き出し座った。

須賀 「只今より一本勝負を始めます!」


「おおおーー!!!」


須賀 「試合始め!」

古賀が積極的に前へ出て面や胴を打ってくる!

ゼンは先に攻撃を仕掛けられることは不利になると知りつつ古賀の様子を見計らっていた。


「おおおーー!!!」

ギャラリーから歓声が聞こえる!

古賀 ≪こいつ・・・なんで攻撃してこねえ≫

ゼンは古賀の放つ攻撃を見事に交わしていく。
小手や胴は竹刀で受け面に限ってはあえて竹刀を使わずそのまま頭だけ左右に振り交わす。

ゼン ≪確かにスピードはありますが追いつけますね≫

須賀 ≪やばい。こいつ本物だ!≫

古賀 ≪こいつ・・・遊んでやがるな≫

ヒラリヒラリと古賀の攻撃を見事に交わすゼンを見て古賀がキレた。

古賀 ≪今だ!≫


古賀はゼンが面を受ける際にほんの少し体制を崩したのを確認し必殺の「突き」を放った!


古賀 「突きぃぃ!!」

ゼン 「!」

ゼンは真正面から飛んでくる突きの受け方を知らなかった。



が・・・。

ゼンは持ち前の運動神経で「スッ」と右に避けた。

ゼン ≪そっか・・・高校からは突きがあるんだ。危なかった・・・≫


古賀 ≪チクショーあれを交わすのか!≫

須賀 ≪うはっ。交わしやがった≫


古賀はゼンが本当に剣道が上手いことが分かった。

古賀 ≪ちょっと慎重に行くか≫


そう思ったときのことだった。


今まで受け身だったゼンがいきなり古賀の見たこともない速さのステップで古賀の目の前にやってきた。

古賀 ≪えっ?!≫

古賀が速いと思った瞬間古賀はゼンに驚き思わず竹刀を振り下ろした。

ゼンはその面に合わせ小手を放った!

ゼン 「小手ぇっ!」

「おおおーー!!!」

ゼン ≪入った≫

剣道部員全員が「今のは入った」と思ったが・・・


須賀は何も言わない。


ゼン 「?」


周りで見ているギャラリーはあまりにもゼンの小手が早かったためなにが起こったのかあまり分からないでいた。


古賀 ≪そうだった。審判は。須賀だ≫

そう思った古賀はゼンにどんどん攻撃を仕掛けてきた。

止まらない!

都大会ベスト8の男の攻撃はさすがにすごいものがあった。

しかし・・・・・・


ゼンは驚かない。
なぜならゼンの父親のほうがもっともっと強いからだ。

何度も何度もゼンは父親と稽古しているため古賀の本気だろうが驚くほどのものではなかった。


ゼン ≪審判が相手の味方ということは周りのみなさんにも入ったことを分からせる必要がありますね・・・≫


ゼンはそう思うと古賀との距離を置くように後ろに下がった。

ゼンはここでもう一度気合を入れなおした。

ゼン 「しゃああああああ!」

ゆき 「え?今叫んだのゼン君?」

ちえ 「あんなゼン君みたことないよ」


ちえは冷静な声でそういったが内心はドキドキしていた。


ゼンは気合を入れると古賀に向かっていった。

今までのほとんどを攻めていた古賀だったので急にゼンが前へ出てくると古賀も一瞬あせりまた面を放った!

ゼンは面をヒラリと交わすと小手、面と激しく打ち込み。さらに小手から胴、胴から面へと全てクリーンヒットさせた!


「おおおーー!!!」


須賀 「一本!そこまで!!!」


須賀は認めざるを得なかった。

文句のつけようの無いゼンの連続攻撃!



ゼンの見事な勝ちで試合は終わった。


ゼンは古賀に一礼した。

須賀 ≪ゼン・・・めちゃめちゃ強いじゃないか・・・≫

須賀は仮に古賀が負けた場合自分がゼンと試合して勝とうと思っていたがそんな気も起こさなかった。


ゼン 「須賀さん、もういいですか?」

須賀 「あ、ああ・・・」

ゼンは部室へ戻り着替えた。



周りにいたギャラリー達はゼンが部室へ戻ると同時に散っていった。


しばらくするとゼンがゆきとちえの前に戻ってきた。

ちえ 「お疲れさまー」
ゆき 「お疲れー」

ゼン 「あ!ちえさん」

ちえ 「あ!ちえさんじゃないわよ。ずっと校門で待ってたのに」

ゼン 「ああ。すいません。先輩に呼ばれちゃって」

ちえ 「いいよ。ゼン君のカッコイイところみれたから」

ゆき 「本当だよー。ゼン君カッコ良すぎ。さっき帰っていく女子達もそう言ってたよ」

ちえ 「え?ほんとー?」

ゆき 「うん。ちえさんだってカッコイイって思ったでしょ?」

ちえ 「うんまあ」

ゆき 「ほらぁ」

ゼン 「ありがとうございますー」


そんな話をしている中・・・部室ではお金が飛び交っていた。


古賀 「ごめん。ごめん。須賀、あいつ無理だ」

須賀 「ああ・・・見てて分かったよ、あれなら全国行けるんじゃないか?」

古賀 「まあ、全国区だよね・・・」

須賀 「あーでもなんかムカツクなあ・・・」


須賀はゼンに敵意を持ってしまった。



そんなことは知らずゼンはちえ達と楽しく帰宅した。




それから数週間後――。


ゼンの住む杉並区で犯罪が多発するようになった。

その犯罪とは老人や女性を狙った引ったくりで後ろから原付バイクで奪うというものだった。


ある日の午後6時30分。ゼン家、夕食時。


ゼン 「いただきます」

食卓には純和風といわんばかりの料理が並ぶ。そんな中おもむろにゼンの父親が口を開いた。

ゼン父「なあゼン、最近この辺で引ったくりが多発しているんだ。友達で引ったくりに遭ったやついるか?」

ゼン 「そうなんですか。友達の間とではそういう話は無いので誰も引ったくりに遭ってないと思います」

ゼン父「そうか。まあ気を付けるんだぞ。もしバイクの音が後ろから聞こえたら注意するんだ。母さんも」

ゼン母「はいな」


ゼン ≪は、はいな?≫



・・・・・


ゼンは普段全くと言っていいほどテレビを見ないので自分の住んでいる区内のことでも知らないことが多かった。



それから日が経つに連れて引ったくりの状況は悪化して行った。

同じ時間に二箇所など犯罪が起こるようになって行き被害額は300万を超えた。



渡部 「あはははー」

坂本 「今回も上手くいったな」

渡部 「ああ。もう300万だぞ。ここも、もう終わりにして次に移るか」

渡部と坂本は両方18歳で高校中退。

中退直後しばらくは土方の仕事に就くも1ヶ月もしない間にやめそれから金に困り引ったくりを繰り返していた。
やり方は簡単で原付バイク(盗品)に二人乗りし後ろに乗っている奴が片手で持っているバックを強引に持ち引っ張りそのまま逃げるというやり方だった。

最初は八王子でやっていたが最近は場所を変えて杉並区中心に引ったくりを繰り返していた。

盗んだバックはサイフから現金だけを抜きあとは川に捨てるという方法だった。


坂本 「やっぱり適当に狙うんじゃなく銀行から出てきた奴を狙うのが一番いいよな」

渡部 「ははっ。前なんて60万も持ってたしなあ。今度は夜やろうぜ」

坂本も渡部も笑いが止まらない状態だった。

盗んだ金で何をしているのかというと。スロットを中心としたギャンブル。

負ければまた引ったくりに走る。盗んでは使い。使っては盗むを繰り返していた。

最近では、効率化と警察を騙すために二台バイクを用意してそれぞれが同じ時間に犯行し複数犯だと思わせる工夫もしていた。



坂本 「明日はあの銀行の駐車場で待機しとくかー」

渡部 「あそこかー駐車場が大通りから見えないからなあ。でもまだサイフに10万あるぞ?」

坂本 「明日晴れだからやっとこうぜ。金はいくらあっても邪魔にはならんからなあ」

渡部 「そりゃそうだな。じゃあ明日ぁ」



翌日。


坂本と渡部は杉並区にある銀行の駐車場へ向かった。


坂本 「おーし、あとはババアでも待っとけばいっか」

渡部 「じゃあ俺コンビニでジュースでも買ってくるわ」

坂本 「んじゃ俺見張っとくな」

こいつらもバカではなかった。

銀行から出てきた人をすぐには追いかけず、いったん泳がせてから人気のないところ見計らって後ろから盗る。

だから一人が見張りでターゲットさえしぼってさえいれば問題なかった。

渡部 「ちょっくら行ってくるな。盗れそうなやつきたら電話してくれや」

坂本 「ああ」


渡部はコンビニに向かった。

それから15分が経った。

坂本 「クッソー。ババアどころか誰も来ねーじゃねえか。なんでだ」

さらに10分後。

渡部が帰ってきた。

渡部 「電話なかったけどおいしそうな奴こなかったのか?」

坂本 「おう、おいしいどころか誰も来ねーんだよ」

渡部 「え?まだ10時前だよな?」

坂本 「おう」


二人は気付いていなかった。効率よく銀行から出てくる奴を待つのを思いついたのは最近で
しかも『夜』やれば目立たないと考え今いる時間が夜の9時30分頃。

とっくに銀行は閉まっていた・・・・・。

渡部 「もうみんな寝ちゃったのかな?」

坂本 「あと10分して誰もこなかったら帰ろうぜ」

渡部 「そうだな・・・・・」


渡部たちが待っているとランニング中のゼンがちょうど銀行の前を通りかかった。

ゼン 「あれ、あそこ誰かいるなあ」

渡部たちはゼンに気付かない。

ゼン ≪なにしてんのかなあ。こんな時間に銀行の駐車場で≫

ゼンはランニングと共にあやしい人がいると自分から声をかけるようにと父親から言われていた。

この前は土手にいたホームレスに声を掛けて仲良くなっていた。


ゼン 「こんなところで何してるんですか?」

渡部 「は? 関係ねーだろ」

ゼン 「いやこんなところにいると通報しますよ?」

渡部 「なんでだよ!中坊はどっか行け」

ゼン 「私高一ですよ」

渡部 「うるせえよ。どっかいけって」

ゼン 「わかりました。帰って通報します」

ゼンは振り返り帰ろうとすると

渡部 「ちょ待てよ!」

ゼン 「はい? 今帰れっていいませんでした?」

ゼンは笑った顔でそういった。

渡部は小さい声で

渡部 「おい。こいつどうする?」

坂本 「このまま返しても通報なんてしないだろ。返していいんじゃね?」

渡部 「それもそうだな」


ゼン 「聞こえてますよ。私の父親警察やってるんで親に言うだけですよ」

渡部はさっきより小さい声で

渡部 「・・・・・おい!どうするよ?」

坂本 「俺にまかせろ」

渡部の後ろで顔だけは見せないようにしていた坂本が渡部の前にでてきた。

坂本 「なあ、どうしたら通報しないでくれる?」


ゼン 「えっと、このまま家に帰れば誰にもいいませんよ。なんか疚(やま)しいことでもあるんですか?」

坂本 「ないよ。ちょっと知り合い待ってただけだ。帰ろうぜ」


坂本は何気なくそういうと渡部を連れてゼンの横を通り道に出ていった。

ゼン 「ヘルメットかぶらないと危険ですよーー」

ゼンの声が彼等の耳に届くこともなく二人は去っていった。

そしてそれ以来杉並区での引ったくりは無くなった。




それから特に大きな出来事もなく3ヵ月が経ち7月下旬。

夏休みに入った。

ゼンは剣道部に入ってはいたもののあまりやる気のない部のようで練習は週に2回。

しかしゼンは家で毎日自主トレをしていた。

ゆきは憧れの探偵を目指しゼンも読んだことのない推理小説を読み漁っていた。

ちえは特にかわった様子はなかったが髪の毛が少し茶色になっていた。


8月夏休み真っ只中。

ゼン達が通っている学校は進学校なので学校から配られる宿題は少なく自分達のやりたい勉強ができる環境であった。

そのことがゆきに拍車をかけ時間があればずっと本を読むという生活が進行していた。


そんなある日のこと。

ゼンがいつものように家のリビングで黙々と腹筋をしていると
たまたま仕事が休みだったゼンの父親がリビングにやってきてテレビを付けた。


ゼンの父親はバライティー番組は一切見ない。

見るのはスポーツとニュースだけ。


その日はニュースを見ていた。


ニュースを見ているゼンの父親は犯罪のニュースが流れると怒りを表情に出す。

ゼン父「なにっ?15歳の少年が両親を刺したぁ?」

ゼン 「・・・」

ゼン父「なにっ?!17歳少年がホームレスを集団リンチだぁ?」

ゼン 「・・・」


機嫌が悪くなるばかり。ゼンはなぜ機嫌が悪くなるばかりのニュースを自分から見るのか分からなかった。


ゼンの父親はしばらくテレビを見た後用事があると家を出て行った。

ゼンは腹筋を300回やった後腕立て伏せを始めた。


それから1時間が過ぎた。

ゼン 「もう五時かあ・・・疲れたなあ」



そんな平凡な一日もあった・・・。

---

夏休みも終わりかけたころ・・・
東京都内では突然人が消えるという事件がちょくちょく目立つようになってきていた。


8月26日。

ゼンの父親がどこか出張にでも行くのか。スーツケースに服を入れていた。

ゼン 「父さんどこ行くんですか?」

ゼン父「ちょっと愛知に出張だよ」

ゼン 「愛知ですか?」

ゼン父「最近の愛知といえばあれだろ。デパート万引き殺人事件。その捜査に俺の後輩が任されているんだがどうも捜査が難航しているようなんだ。そこで俺に助けを求めて来たって訳」

ゼン 「え?でも仕事はいいんですか?」

ゼン父「もちろんちゃんと許可取った」

ゼン 「そうなんですか。でも最近この辺でも人が消えるという事件が起きてるんですよ?」

ゼン父「お前な・・・自分を頼って連絡してくれた可愛い後輩の頼みぐらい聞くもんだ。あと、すぐ片付けて帰ってくるから心配ない」

ゼン 「はい、そうですよね」


ゼン父「それにしても金田一・・・あいつも相変わらず・・・だな」


翌日、ゼンの父親は愛知へ出向いた。


ゼンの父親が出張した後もゼンの住む地域では人が消える事件が起きていた。

9月。学校が始まるとゼンの学校では「絶対に一人で行動しないように!」と強く言われるようになった。

ゼンの父親はまだ帰ってこない。


---

9月上旬。東京湾近郊。工場跡地。

午後10時。アジア系の外人が14名ほどで会議を開いていた。
その中のリーダーは王(おう)。

王     「おし。これでようやく20か。これだけ売れば3000万にはなるな」

韓(かん) 「そうだ。とっとと運ぼうぜ」


王の目の前には日本人が男女合わせて20名(男3、女17)。年齢は下は7歳、上は20歳と平均して若い。

日本人は皆東京で誘拐したものだった。

王 「そろそろ。トラックが来るそれに乗せて北へ行くぞ」

誘拐は昔からちょくちょく行われていた。
ここで誘拐された日本人はそれぞれ「使われ方」は違っていて中には
臓器を売られるもの。奴隷のような扱いをされて一生を暮らすもの。
日本語を教えるものなど、それぞれ違う。

ただ1つ言えることはどんな状況に置かれようが逃げ出すことができた人はいない。

王はこの誘拐するのは2回目。他の連中は初めてだ。2回目ということだけのリーダー。

リーダー(王)の権限はたいしたものではない。

そしてこれは組織ぐるみで行われていて王はたまたま東京。

他にも札幌や名古屋、大阪、福岡など日本各地で誘拐は行われている。

誘拐された日本人は世界の富豪たちに極秘で買われていた。


王 「お。トラックが来たぞ」

日本人達は全員目隠しされ口もガムテープのようなもので留められていた。
手は後ろで固く結ばれている。

1列に並ばされ闇の中、日本人達はトラックに乗せられゆっくりとトラックは北へ向かった。





---

9月中旬。

ゼンの父親が帰ってきた。

ゼン父 「くっそおお!1つも証拠がないじゃないか」

ゼンの父親はいつになく興奮している。

ゼンは父親にからまれないようにとそっと夜のランニングに出た。

ゼン ≪あの様子じゃ犯人見つけられなかったんだなー≫

ゼンはいつも通る道に飽きていたので今まであまり走ったことの無い道を走ることにした。


ゼンがランニングとは思えないスピードで走っているとどこからか大きな泣き声が聞こえてきた。

ゼン 「どうしたんだろ」

ゼンは人が泣いているのを放置できるような人間ではなかったので大きな泣き声のするほうへ走って行った。

ゼンが5、6分ほど走ると周りの家とは比べ物にならない大きな家の庭で通夜が行われていた。

ゼン 「葬式?」

ゼンは遠くから大きな庭で行われている通夜を見ているとどうやら高校生らしき人がたくさん庭にいることが分かった。
そして女子達が庭でワンワン泣いている。

ゼン 「この人たちの泣き声だったのか」

ゼンはなぜかほっとし、またランニングに戻ろうと振り返ると・・・


「キョーーーーーーーーーウぅぅううう!!!」

と、大きな男の声がした。

ゼンはなにがあったのかもう一度振り返るとさっき居なかった不良っぽい男子生徒が5,6人庭のど真ん中にいた。

「何で死んじまうんだよおおおおおおおお」

不良の仲間だったのだろうか。一人の不良が地面にひざをつけ拳を地面に叩きつけながら泣いている。

「キョウ君、キョウ君」と女子はもちろん男子も不良も先生もみんな泣いている。


ゼン 「人気のある人が死んでしまったのかな?」

全く知らない人の死でもあれだけ周りが泣いているとゼンの気持ちも悲しくなってきた。


「嘘だと言ってくれよ!また前みたいに笑って手品見せてくれよ!」


近くにいた先生らしき人が不良を抱きかかえる。


ゼン 「・・・帰ろう」

ゼンは見ていられなくなり家に帰ることにした。

キョウとは一体何者なのか――。

キョウの年齢はゼンの一個上。
---
通夜が行われている時よりさかのぼり1年前、キョウが高一だったときのこと。

キョウの家庭は父親とキョウの二人で母親はキョウが生まれてすぐ離婚したためいない。

キョウの父親は世界的なマジシャンで家を留守にすることが多かったため執事を何人か雇ってキョウの面倒を看させていた。

キョウは幼いころから私立の小学校、中学校を出ていたが楽に進級していくのが嫌になり高校は無理やり公立の高校を選んだ。

選んだものの周りの生徒と自分との温度差を感じていた。
キョウの高校生活は明らかに浮いていてとりあえず学校へは執事が運転する車。
授業が終わると校門の外で執事が車に待機していてそのまま帰る。

こんな生活をしていたため友達はいなかった。

相変わらず父親の仕事は忙しく・・・8月のある日。
キョウの父親は仕事で行ったアメリカで何者かに銃殺されてしまった。


そんな事件が起こり、父親の葬式も一通り片付いた8月中旬。
夏休みの真っ只中。

キョウは昔から雇っている執事の庄助(しょうすけ・56歳)と話をしていた。

キョウ 「ねぇ、スケさん。このノート売ったらいくらになる?」

スケさん「え? ダメですよ。それはお父様が開発した仕掛けが書いてあるんですから」

キョウ 「だからいいんだよ。出すこと出したら軽く10億はいくんじゃね?」

スケさん「売ってはいけません!」

キョウ 「だってよー。こんなの見ても俺じゃわかんないし。売ったほうが親父も喜ぶって」

キョウが手にしているのはキョウの父親が開発した手品のやり方が事細かく書かれているノートだった。

スケさん「大事な形見なんですから。それに今はまだ出来ないかもしれないけどいつか出来るようになると思いますしお父様もそれを願っていますよ」

キョウ 「だめだよ。俺はちっとも手品師の才能ないみたいだし」

スケさん「そんなことありませんよ」

キョウ 「スケさんには分からないかもしれないけど俺にはわかるんだ」

スケさん≪ちょっと昔出場した大会で準優勝だったからって・・・≫


キョウはパラパラとノートをめくり見ていると・・・

キョウ 「スケさん。これ凄くない?大脱出だって、親父がこんなのやったのみたことないぞ」

スケさん「これからやろうと思っていたマジックなんじゃないですか」

キョウはノートを見ながら

キョウ 「ふーーん。まっ!どうでもいいけどね。 あーそれにしても高校つまらないし。何か面白いことないかな」

スケさん「そのノートに書いてある手品を1つ学校で披露してみたらいかがでしょう?」

キョウ 「えー。そんなことしたら調子乗ってるって言われてもっと高校生活がつまらなくなっちゃうよ」

スケさん「どうせ今もつまらないんだったら一緒でしょ」

スケさんは少し顔が緩んだ。


キョウは父親の葬式のときに担任の先生と話したことを思い出していた。

---

担任 「キョウ君のお父さんはすごい人だったんだね。 手品師だったなんて知らなかったわ」

キョウ「うん」

キョウは泣きたかったが周りの目を気にして泣くことを我慢していた。

担任 「どう? 学校は楽しい?」

キョウ「普通」

担任 「キョウ君は手品できないの?」

キョウ「一応できる」

担任 「へー。すごいなあ。一度見たいなあ」

キョウ ≪こんなときに何言ってんだよ≫

担任 「あーごめんなさいね。こんなときに・・・」

---

キョウ「手品かあ・・・先生も見たいって言ってたっけ」

スケさん「ほら、やりましょうよ。10月に文化祭あるんですよね? そこで」

キョウ 「そうだな。 もしかしたら女子にモテるかもしれねーし(笑)」

スケさん 「あははっ」 ≪昔から心の底は素直な子なんだ≫


そして夏休み中に学校に連絡を取り文化祭で手品を見せることが決まった。

夏休みが終わる前までにキョウは父親のノートで簡単そうな手品を1つ選び一生懸命練習していた。

キョウ 「ここに俺に変装したスケさんを置いといて瞬間移動したように見せると・・・。よしよし」

スケさん「なんだか楽しいですね」

キョウ 「やるからには絶対成功させる。ミスったら笑いもんだしな」


そんなこんなで文化祭を迎えた。


キョウの選んだマジックは瞬間移動。

体育館の前で演技をしているキョウが3秒もたたないうちに後ろのドアから体育館に入ってくるというもので
その仕掛けは執事の手伝いもあり大成功に終わりキョウは一躍高校で人気者になってしまった。


それからもキョウは手品を見せて欲しいといわれれば笑って昔父親に教わった簡単な手品を見せては生徒達を喜ばせていた。

キョウは調子に乗っていて高2の文化祭でも大掛かりな手品をやると生徒達に言っていたため
生徒達は期待していた。


そんなキョウが高二になった4月のある日。

キョウに不幸な事件が起こった。

キョウ 「おい! スケさん! 大変だ」
キョウが慌てて螺旋(らせん)階段から降りてきた。

スケさん 「どうしました?」

キョウ 「親父のノートが無いんだよ!」

スケさん「ええ? あの本は昨日ちゃんと金庫にしまったはずです」

キョウ 「じゃあなんでないんだよ。俺と執事しか開け方しらない親父の作った金庫だぞ!」


スケさん「まさか・・・執事の誰かが」

キョウ 「今からすぐに全員集めろ!」

キョウは一階のリビングの一人用のイスにどっしりと座り執事が集まるのを待つことにした。

10分後。

スケさんを始めとする執事達が5人キョウのいるリビングに並んでいる。

キョウ 「おい! 一人足りないじゃないか! ヤスは?」

スケさん「それがいくら電話しても出ないのでマンションに行ってみたんですが留守でした」

キョウ 「・・・まさかヤスが・・・」

スケさん「いや、彼はそんなことする人じゃないです。 きっと何かの間違いです」

キョウ 「だったらなんでいないんだ!」


しらばくリビングには沈黙が続いた。

キョウ 「ちくしょ。マジでどこに行ったんだよ」

ふいにキョウの目から涙が出てきた。

スケさん「すいません。私達がしっかりしてないばかりに」

スケさんがそういうと回りの執事たちも頭を下げた。


キョウ 「いや。みんなのせいじゃない。こうなったら絶対探し出すぞ」

執事一同「はい」


そんなときだった。

「トゥルルルルルー。トゥルルルルルー」

キョウ宅の電話が鳴った。

スケさんがキョウに目で合図して電話にでた。

スケさん 「もしもし」


「ノートは奪った。返して欲しければ1億円と交換だ。今日の午後6時までに現金で1億円用意しとけ。
また電話する。サツ(警察)に連絡したと分かったらすぐ燃やすからな。あーあとお前んとこのやつは言うこと聞かなったから川に捨てた」

機会音のような声でそう言われると電話は切れた。

スケさん 「・・・」

キョウ  「どうした?」

スケさん 「ノートはヤスさんじゃなくてまた別の人に盗まれたみたいです。それで1億円用意しろと。警察にも連絡するなって、あとヤスさんは死んでいるかも」

キョウ  「え? まさか今のは奪った奴からの取引電話?」

スケさん 「はい」

キョウ  「くっそ。そうだったのか。・・・ちくしょー。どうするんだ」

スケさん 「とりあえずお金だけは準備して置かないと」

キョウ  「いや。待てよ。 金は新聞紙を使えば20万で済む。問題は誰が犯人なのかってとこ。とりあえずみんなは1億入るケースを用意して新聞紙で束作ってくれ」


執事達はキョウの言われた通り動き出した。

キョウ  ≪くっそ。結局犯人は俺の親父が書き残したノートがあると知っていた人だ・・・。それにヤスが執事だということも≫

執事達が物置にしまってあった頑丈そうなケースを庭で洗い。リビングに持ってきた。

キョウ  ≪ノートを奪ってもそれを直接売ろうとはせず俺達と取引だろ。ってことは・・・≫

キョウの頭には一人の人物が思い浮かんだ。

キョウ  ≪でもあいつだとしたら・・・ヤスを殺すなんてできないはずだ。複数犯かも≫

あいつとは、3年前までキョウのところで執事をやっていたヒコ助というやつでキョウの父親とはキョウが生まれる前からの知り合い。

スケさんよりキョウの父親はヒコ助を信頼していたしキョウを任せていた。
キョウは生まれたときからヒコ助がそばにいてある意味父親のような役割だったため
キョウはヒコ助にはキツく当たることが多くヒコ助はキョウに対して我慢の毎日が続いていた。そんな中、
キョウが3年前私立高校へ行かないというとヒコ助は激しく反対しそれをきっかけにキョウの執事を辞めることになった。

キョウ ≪なんだろ・・・恨みか? それにしても親父のノートと取引するとは変わったな≫



それから数時間が経ち午後6時。

キョウ宅に犯人からと思われる電話がかかってきた。

「1億集めたか? 今から取引場所を教えるからよく聞くんだ」

普段電話には一切でないキョウが電話に出た。

キョウ 「お前、ヒコ助だろ?」

キョウには相手が少し戸惑ったように感じた。


キョウ 「なあヒコ助なんだろ?」


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