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☆小説☆ タイトル 病院のカップル

 愛より金?あたりまえのこと? 俺もそう思っていた。本当の愛を知るまでは・・・・・・。

 夏のある日、俺はアホみたいに一人で散歩をしていた。 歩くことは、健康に良いと言われていたからだ。
サラリーマンの俺は、会社の帰り道、歩くために駅を1つ前で降りて帰宅していた。
全ては健康のため。少しでも長く生きるため。丈夫な体になるため。出会いを求めるため歩いていた。
俺は、一人暮らし。彼女は、ずっといない。両親は500km離れた山の中で暮らしている。
連絡はほとんどしない。
会社帰り、いつものように歩いていると・・・ありえないことが起こった。

「あぶない!!どけーーー!!!」
なんのことかわからない俺であったが、生まれつきの反射神経で3mほど前へ飛んだ!
完全にかわした、と思った。しかし、俺が気付いたときは病院のベットの上だった。

俺は、何かで『固定』されていた。動けない!
俺は、自分がどうなったのか知りたかった。
だから、俺は、隣のベットで眠っている患者の見舞いに来ている女性に話し掛けた。
俺「ちょっと、すいません。」
女性「え?私?ナンパは街でやってね!」
俺は、ベットに固定されていたため、この女性を殴ることはできなかった。
俺「いや・・・あの・・・。そうじゃなくて。俺はどうなっているの?」
女性「どうって?この部屋にいるんだから、相当ヤバイでしょ。私の彼は1ヶ月前から植物人間」
俺「・・・。」
女性「あ?看護婦さん呼んであげようか?今、目覚めたんでしょ?」
俺「あ・・・お願いします・・・。」

この女性が高校生だと気付いたのは、それから1ヶ月ほど経ってからだ。20歳ぐらいと思っていた。

俺は、看護婦さんからいろんなことを聞いた。俺がなぜここにいるのか。俺はこれからどうなるのか。
看護婦さんは教えてくれた。
俺は、建設中のビルから落ちてきたカナヅチが運悪く頭に当たり倒れた。ということ。
カナヅチが当たってから1週間ほど寝ていたこと。
その間に、会社の人達が見舞いにやってきたこと。
両親は来ていないということ・・・。
俺は、健康のために歩いていたのに、・・・今病院にいることに矛盾を感じながらベットに固定されていた。

俺は、隣の植物と比べるようになった・・・。どっちが幸せか。
俺は、リハビリをやれば、早くて半年、遅くとも1年で普通の生活ができるようになると言われている。
俺の隣の男は、植物人間だからいつ目覚めるかわからない。
俺には、彼女がいない。あいつにはいる。
俺には、見舞いに来てくれる人がいない。あいつはいる。
俺は元の生活に戻ることができる。あいつはできない。

俺は、隣で植物をしている男が高校生だということに気付いたのは、
俺がすこしベットの上で動けるようになってからだ。

隣で寝ている彼は、何一つ言わない。表情もない。俺からみたら死体だ。
しかし、彼の彼女は毎日やってくる。
俺は今時の高校生は、チンタラポンタラ何も考えず、トロトロ生活しているものだと思っていた。
俺はその彼女と仲良くなった。と、いうか、そいつしか、話す人がいなかった。
最初話したときは、なんだこいつ と思ったが段々話しているうちに とてもイイ子だということに気付いた。

俺は聞いた。
俺「なんで、ちょっとも、動かないこいつの見舞いに毎日来るの?」
女性「だって、いつ目覚めるかわかんないし。目覚めたとき隣に誰かいたほうが喜ぶと思って」
俺は、コイツは、ノイローゼだと思ったが、口に出すことはできなかった。
俺「そうだね。俺も目覚めたとき、あなたが隣にいて、ちょっとホッとしたんだ」
そういうと彼女は少しニコッと笑った。

それから、しばらくして、俺はリハビリをするようになった。
体を動かす神経がやられていたらしく、思ったように動かない。

植物君の彼女は、毎日やってきている。

彼女は、植物君が目覚めると本当に信じているのか。
相当、植物人間になる前、楽しかったんだろうなぁ。幸せだったんだろう。

そんなことを思いながら俺は、元の生活に戻るためリハビリをしていた。

俺が入院してから、1年が経った・・・。
俺は、回復はしたものの、明らかに元の生活に戻るところまでは回復していなかった。

植物君は、目覚めない。

彼女は、高校3年生になったらしい。

ある日。俺は奇跡を見た。

いつものように見舞いにくる彼女。
いつものように寝ている植物君。
いつものようにボーっとしている俺。


彼女が植物君に話し掛けた。

彼女「私、あなたと一緒に高校卒業したいから1年留年しようかな」
彼女は泣いていた。
俺 「・・・。」
彼女「もう、疲れたよ」
俺は、ベットで寝ているフリをして聞いていた。
彼女「じゃあ、また明日来るね」

そう言って彼女が帰ろうとすると、植物君の目から一粒の涙がこぼれた。

彼女「!!!」
彼女は急いで看護婦さんを呼んだ。

看護婦さんは、心臓の音を聞いた。
看護婦 「・・・お亡くなりになりました」

彼女「1年・・・。これだけ世話して、涙1つ。でも、良かった」
彼女は泣いていた。

俺は、寝たふりをしていたが、俺の目からは、涙が溢れた。

おしまい。